「深める」研究と「広める」研究


美術の研究会(図工美術の専門の先生が集まって行う研究会)がありますが、私は2つの視点があると考えています。

「深める研究」と「広める研究」です。

「深める研究」は私たち美術教師自身が目の前の子ども達のために、明日の授業(教育)に生かすための研究で,教育内容を充実・発展させるためのものです。

もう一つは「広める研究」です。これは研究会で得て来た成果を広げていくための研究です。小学校で「図工の指導がよくわからない(本当は指導書があるのですが)」と言っている先生や中学校で無免許で教えざるを得ない先生を支援するための研究です。
 ほとんどの研究会・研究団体は「深める研究」が主流でしょう。
しかし、学校教育現場で美術専科が、実際に生徒に指導する数は全体から見ると少ないことから各地域の研究会で「広める研究」に着目すべき時に来ているのではないでしょうか。もっと言えば、親になった方々への啓発も必要でしょう。あるいは地域もあるでしょう。

 実践例…「版画の研修会」

石狩造形教育連盟では一般の先生を対象とした「版画指導の研修会」の研修会を開催しました。(関先生の発案です)
研修会の宣伝は石狩管内の小学校教師全員に配布しました。(版画にしたのは現場では必ずやるけれども難しいという声もきくので)


 版画の指導に熱心な青森の若手の先生を講師として実施しました。講師の旅費等のこともあって参加費500円を徴収させていただいたうえ、休日であったにもかかわらず60人もの先生が集まってくれました。個人的な参加要請は一切なしの結果です。
 講師の先生は前半部分は学級経営と図工のかかわりや子どもの表現する心を大切にしていることを話されました。後半は版画指導の実際ですが、指導書ではわかりにくいちょっとした指導の工夫について話されました。非常に好評でした。
 特に参加者は版画の指導方法を学びに来たのですが、結局は図工が学級経営のうえでも大切な教科であることや子どもの描きたい、つくりたいという「思い」が最も大事であることなどをつかみとってくれたようです。

 この研究会のあと「広める研究」として「楽しい図工」「学校を飾る」などのテーマで実施しました。
 講師の先生にはその研修会が「ハウツー」ではなく、「図工科のねらいや子どもの中に何を育てるためのものか」とということを大切にしながら講演(あるいは実技研修)していただきました。
 なお、企画した私たち自身も共に学ぶという姿勢が大切だと思っています。

 各地域で「広める研修」をすすめることで、多くの子ども達の学びがより豊かになっていくはずです。

 自分たちの研究を進めることも大事です。
しかし、同時に美術教育のよさを広めていく取り組みこそ、もしかしたら今大事なことなのかもしれません。実はこの「豊かな美術教育を」というサイトは、「広める研究」の一方法だと思っています。

 目の前の子ども達のために自分を磨き、高めていくことはは何より大切なのですが、そこに費やす時間の一部を自分と直接かかわらない子どものために、使ってはどうでしょう

 最近、ちょっとしたことがきっかけで、「図工はどう指導したらいいかよくわからない」と言っていた先生を何回かに分けてサポートして来ました。サポートしていくうちにその先生自身も(自分を表現する教科としての)図工の大切さは学級経営のうえでも重要だということがわかってきたとのことでした。

 私は、だいたい次のようことを話してきました。
・子どもの「思い」を大事にする。担任はその作品を通して子どもとかかわっていく(子どもの表現したかった思いを教師が受けとめる)こと。
作品から生まれる会話を大事にして下さい(中学校では生徒数が多くて厳しいのですが、小学校なら、存分にできます。私の反省も含めて)
・「その子だから描く絵、その年齢だからこそ描く絵」が題材設定のヒントになる。
・かきたい、つくりたいとい題材提示の工夫が、とても大事です。特に授業の最初。

 さてサポートですが、クラスや子どもの様子を聞いてから、相談しながら指導を組み立てました。授業後の報告を聞いて私自身が勉強になることがありました。 
その先生独自の工夫がわたしの提案よりよいなと思ったこともあります。
もうその先生はなんとなく図工で何が大事かがわかってきたような気がするとも言いましたし、図工の時間が楽しい(子どもも教師も)と言って来ました。
最近は電話が来ません。うれしいことです。
気がついたらサポートではなく「共同研究」になっていました。私も勉強になりました。

 さて、私の尊敬する小野有五氏(北海道大学教授/地球環境科学研究科)は、小野有五氏個人のホームページで、「いま地球環境科学者の(少なくとも半分が)やるべきことは研究よりも行動」と主張されています。

人類の最大の課題ともいえる「環境問題」、これに対し、今何が必要で何をすべきかを示すだけではなく、自ら行動をしています。そして批判をしたら代案を出しています。
 そして多くの方々とネットワークを組んで活動しています。
本当に学ぶべき人です。

2004年6月11日 山崎正明

 この「広める」研究は、今後の美術教育全体をより豊かにしていくためにもどうしても必要です。美術教育の研究団体はここにもっと注目すべきでしょう。2008年全道造形教育研究大会では「授業づくりの基本を学べる研究会」というコンセプトのもとに広める研究にも力を入れました。
その結果、例年の全道大会よりも多くの方々が集まりました。400人を超えました。
 なんと中学校では美術を教えている他の教科の先生も参加。

下は、全道に配布したチラシです。