教室から出た美術〜環境が人間をつくる

 校内が「美術作品」(生徒の作品や名画の複製画)で、いっぱいなればいいと思う。
 新しい学校に赴任したら必ず購入してもらうものは「暗幕(観賞用に)」と「複製絵画」。
 購入した複製絵画をまず校内に飾る。それだけで校内の雰囲気が違ってくる
(ポケットマネーで古本屋で画集を買い、切り取って掲示したこともある)
 数年前から、オリジナルの掲示物もつくっている。大きさはA3。こちらの方は、コメントや作家の言葉もあわせて紹介している。授業と関連させやすい。
 いろいろな中学校に行ってみて、なんだか寂しい感じを受けることも多い。
 美術教育が校内環境を変えていくくらいの、気持ちがあれば、もっと一般のひとにも美術のよさを理解してもらえたのではないか。自分の反省も含めて。
 私の学校は生徒の絵も複製画も多い。来客がこのことを話題にしてくれることもある。放課後や休み時間、たまに生徒が作品を見ていたりする。うれしいものだ。声をかけて話をすることもある。
 授業で鑑賞をしている時、「その絵見たことある!」という声があがるときがある。生徒は知っているだけでも親しみがわく。私たちにも、そのような経験があるのではないだろうか。
 校内に複製がを飾るだけなのだが、生涯教育という視点でとらえるならば、優れた方法だと思う。予算で要望し、購入してもらったものを飾るだけだから。(複製画と言ってもA2の大きさで、12枚セット、1万5千円くらいのもの。シリーズで買い足していけばよい。)
 ある時、荒れている学校の美術の先生と話をした。とりあえず、生徒作品の他に複製画を飾ることをすすめた。生徒がいたずらするのではないかと、不安がっていたが、そんな学校こそ環境を文化的にすることを、すすめた。(実は私も、似た経験がある。掲示物は無傷だった。)実際に飾ったら、校舎の雰囲気が暖かい感じがしたし、いたずらがないことに驚いていた。考えてみれば、絵を飾るということは「心、豊かにね!」というメッセージでもある。
 いろいろなジャンルの作品を掲示していると、生徒の興味関心もわかってきたりする。
 どの作品をどこに掲示するか工夫するのも楽しい。歴史の授業との関連を考え、2年生の廊下は、歴史関係を意識したりしている。(今年は「パルテノン神殿」と「法隆寺」を並べて掲示したら、社会の先生から感謝され、うれしかった。)印象派の絵は音楽室の前に。相談室に入り口は、優しい感じの絵に、など。
 日当たりの悪い場所には明るい風景がだとか、一枚の絵があることで、力のない空間に力が出てきたりする。
 ちなみに、生徒作品の場合のほうが、注目度は高い。同世代の描いた作品だから。授業後に全員飾る作品の他に、長期間飾るものについては、制作年月日やコメントも加えて掲示している。メインはこちらであるが。美術部の作品もいい。
 ところで、校内だけではなく、地域に作品を飾るの良い方法だ。学校に地域の作家の作品を飾るのも良い方法だ。函館の小学校で空き教室を美術館として活用しているのを見たことがある。素敵な空間だった。校内美術館やギャラリーなどの運営はなにも美術の先生でなくても、PTAでもいいわけだ。また地域のアイーティスととの連携もあるだろう。
 日本文教出版の「FORME」のバックナンバーを見れば、豊富な実践例が取り上げられている。
 「文化芸術振興基本法」から、一部引用したい。「文化芸術を創造し、享受し、文化的な環境の中で生きる喜びを見出すことは、人々の変わらない願いである。」
 私たちは美術教育を教室から出す努力が必用だ。多感な時代こそ、多くの優れたものに触れる環境をつくってあげたい。いわゆる「文化的な環境」。その先端は美術教師が担う。「環境が人間をつくる」という言葉もある。
 教室から出た美術ということで、以下のHPは刺激になった。すごいパワーだ。
 特に伊丹っ子美術館の中の2002年『図工展/これがわたしの色・形・想い」は必見。会場風景の写真があるが、保護者が見に来ているその様子からたいへん盛況であることがわかる。
 作品の展示もシンプルで美しく掲示されている。簡単な解説も付けられている。子どもの作品を大事にと言うが、これは事実で示している。運動会と同じように全国に広まったら、これはすごいことになるに違いない。

                 2004年1月11日 山崎 正明 

★04年08月31日 追記
 伊丹っ子美術館の2003年版が更新されました。最初に注目したのは「会場風景」。この熱気。保護者の方々もこんなに参加してくださるなんて本当に素晴らしいことです。
 そして、今回は「図工展を終えて」という感想が掲載されていました。多くの学校の参考になるのではないでしょうか。私たち教師の共通の課題もあります。国レベルで考えていただきたいこともあります。(ところで「図工展を終えて」の文のカットはPTA広報のものが使われています。PTAとしても注目の活動ということになります。)
 作品の方ですが、今回は動画まであります。また各学年の題材名ひとつをとっても子どもの側に立った素敵なものばかりです。
 1年生の「ようこそ!どうぶつらんどへ!」などは、一人一人がつくっていたものが、一つにまとまるとこんなにも迫力を生むのだという感動を与えてくれます。
 前にも書きましたが、これが各学校で広がったらそれはそれは、すごいことになりそうです。
このような活動を一学校にとどまらせず、このように発信して下さることに感謝。
★04年12月19日 追記
 伊丹っ子美術館の「図工展」が消えるかもしれないとのことで、何とか残らないものかと思っています。